法人成りのタイミング~所得金額編~
「売上が順調に増えてきたけれど、そろそろ法人化すべきだろうか?」
個人事業主として事業が軌道に乗ってくると、誰もが一度は「法人化」のタイミングに悩みます。一般的に、法人成りの目安は「売上1,000万円」や「利益800万円」と言われますが、私が推奨するのは「利益1,500万円以上」です。
今回はその理由を、シミュレーションを交えて解説します。
よくある目安「800万円」の落とし穴
「利益800万円で法人化」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは所得税と法人税の税率差に着目したものですが、実は大きな見落としがあります。
なぜ800万円ではダメなのか
法人化しても役員報酬には所得税がかかります。つまり法人成りとは「所得を、所得税と法人税に分け合う行為」なのです。
ここで現実的な問題があります。3~4人の家族がいる場合、生活費として年収600~700万円程度は必要でしょう。利益800万円で法人を作っても、ほとんどが役員報酬(生活費)に消えてしまい、会社に残せる利益がほとんどありません。
結果として、所得税と法人税への「分散効果」が得られず、さらに社会保険料が跳ね上がるため、個人事業主の時より負担が増えてしまうことさえあるのです。
既に資産がある方や独身で生活費を必要としない方で役員報酬を抑えられるなら別ですが、一般的な家族経営では利益800万円での法人化はメリットが薄いと言えます。
私が「1,500万円」を推奨する理由
3つのパターンで比較してみましょう。
| パターン | 状況設定 | 年間の税・社保負担額 | 個人との差 |
|---|---|---|---|
| ① 個人事業主 | 課税所得 1,500万円 | 552万円 | ー |
| ② 法人(失敗例) | 利益1,500万を全て給与 | 645万円 | 🔺93万円増 |
| ③ 法人(成功例) | 給与700万 + 会社に800万残す | 449万円 | 🔽103万円減 |
※概算シミュレーション。扶養状況等により変動します。
成功の鍵は「分散」
役員報酬を生活に必要な額(例:700万円)に抑え、残り(800万円)を会社に残すことで、以下の効果が生まれます。
- 社会保険料の抑制:給与を適正額に抑えることで保険料負担を下げる
- 法人税の軽減税率:会社に残した部分には中小企業の低い法人税率が適用される
つまり「生活費を引いた後に、会社に800万円くらい残せる(=トータル1,500万円)」状態こそが、法人化の真価を発揮できるタイミングなのです。
税率マジックに注意
「所得900万円を超えると税率33%だから法人化すべき」という説明を聞いたことがあるかもしれません。しかし、これは超過累進課税を理解していない誤解です。
所得税は「超えた分だけ」に高い税率がかかる仕組みで、実際の税負担は見かけの税率よりずっと低くなります。さらに法人税にも地方法人税などが加わるため、実質的な差は思ったより小さいのです。
「法人成りを煽る人」の中には、この税率マジックを使って、自分が儲かるから(設立コンサル、保険、税理士顧問契約など)勧めているケースもあります。注意しましょう。
法人成りに向いている人・向いていない人
向いている人
- コンスタントに課税所得が800万円以上出ている
- さらに利益を伸ばし、トータル1,500万円を目指せる見込みがある
- 従業員を雇用して組織化したい
- 大手企業との取引や銀行融資のために社会的信用が必要
個人のままの方がいい人
- 利益の波が激しく、翌年は大幅な減益や赤字になる可能性がある
- 家族経営や一人親方で、規模を拡大する気がない
- 経理や手続きの複雑さを極力避けたい
最後に:必ず税理士とシミュレーションを
法人成りのタイミングは、利益額だけでなく、家族構成、将来の事業計画、インボイス対応などが複雑に絡み合います。「なんとなく得そうだから」で法人化すると、社会保険料と税理士報酬で手取りが減ってしまうことも珍しくありません。
必ず信頼できる税理士に、あなたの実数値に基づいた「法人成りシミュレーション」を依頼し、具体的な手取り額の変化を確認してから決断することをおすすめします。
※今回は利益という数字にフォーカスしましたが、数字だけで判断すべきではありません。取引先や金融機関との関係、採用、ビジネス発展への情熱も重要な判断材料です。
